パリの71年間がここに! ポンピドゥー・センター傑作展
2年前の夏、晴れの日にパリのポンピドゥー・センターを訪れたことがある。
パリの市役所近くを歩いていたら、フランス人のおじさんに話しかけられ、なぜか私を建築系の仕事についていると勘違いをし、「そりゃパリに来たらならポンピドゥー・センターに行かなくっちゃ。」と誘われ、そのままついていったのだ。
彼は、「ポンピドゥー大統領のポンピドゥーだよ?知らないの!?」と、その素晴らしさを語っていた。(と、思う。私のヒアリングが正しければ…。)
撮影:Yshiko
現代美術や現代音楽、ダンス、映画といった様々なジャンルの複合的な芸術施設をパリ中心部に建設することを唱えた、ジュルジュ・ポンピドゥー大統領からこの建物は名付けられている。芸術の波がNYへと流れたなか、再びパリ芸術を発展させようとしたとのことだ。館内には、近代美術館や公共情報図書館、パフォーマンス・映画上映用の施設が入っていた。レアゾ・ピアノとリチャード・ロジャースが設計しており、当時のパリの伝統的な建築とは異なったため、鉄パイプやガラスがむきだしの外観に批判も喝采をも浴びたらしい。
だからこそ、ポンピドゥー・センターがパリに与えた影響はきっと大きかったのだろう。もちろん、中の作品だけでなくその空間もすばらしかった。
上階からは、パリ市街が一望できる観光スポットともなり、1977年に完成されてのち、今ではパリを代表する名所になっている。
撮影:Yoshiko
撮影:Yoshiko
さて、日本で開催されているその「傑作展」。思い出が蘇りながら取材に向かうと、まず面白さを感じたのは「1年1作家1作品」というその展示方法である。
1906年から1977年にかけて毎年、その年を代表する作家を1人、その人の作品を1つ、そして作家を象徴するようなその人の残した言葉が横に大きく書かれているのだ。
それによりパリの歴史や美術の流れを大きく体感することができる。
また1つ1つの作品に説明が書かれているので、美術の知識に詳しくなくても、作品の背景を理解することができるのは魅力だ。
それぞれの時代背景、それぞれの作品、それぞれの残した哲学的な言葉…。
71年間にわたる、71人の71作品のほんの一部紹介しよう。
ラウル・ヂュフィ 旗で飾られた通り 1906年
ロベール・ドローネー エッフェル塔 1926年
まずは、フランスの街並みやエッフェル塔をモチーフとした作品から。
ダイナミックな構図と色使いのように感じた。パリの華やかな時代、興奮と歓喜に満ちた時代を想像してしまう。
なぜか、ラッパや人のざわめきも聞こえてきそう。
セルフィーヌ・ルイ 楽園の樹 1929年
こちらは、守護天使のお告げで絵を描き始めたという女性画家セルフィーヌ・ルイの作品。
ひときわ目をひく色合いをしていた。あとで調べたら彼女は絵の具を自然の具材から作成しているらしい。
オットー・フロイントリッヒ 私の空は赤 1933年
1933年のフロイントリッヒ作品にあるこの赤は、社会主義の赤を象徴している。
ユダヤ人だった彼は強制収容所で最後を迎えたそうだ。
マリー・ローランサン イル=ド=フランス 1940年
1940年はナチス・ドイツによるフランス占領の年。しかし、その年のマリー・ローランサンの作品は、とても
暖かくて穏やかで優しいパステルな色に包まれていた。女性らしさや愛らしさの追求をした画家だったのだろう。
戦争の色合いが濃くなり始めた時代にさしかかると、メッセージ性が強く、熱い作品もあるし、もっと静かにただただその戦争における悲しみを表現せずにはいられなかったという作品も出てくる。その表現の違いもまた面白い。
私がこの「作家、作品、言葉」の展示方法によって一番に感じたのは、どの作家も共通して自分が感じたものへの
あくなき追求と情熱があるということ、そして、何に胸を熱くし、何をつらく感じ、何をどう表現したかったのか、そこに大きな違いがあるということだ。
自分を取り巻く環境やとある対象物に積極的に向き合う人がいる一方、自分の中にあるものを残さずにはいられず、必然的に自分と向き合っている人がいるように感じた。
鑑賞をしながら単純に「この形状に対してどれだけの情熱を注いでいたのかしら…。」と少し可笑しくなってしまう作家もいたし、「この人は、こんなことばっかり考えていたのかしら!」とその奇妙さをリスペクトしたり、「音楽と絵画か…。共感覚ってどういう世界なんだろう」と思いをはせたり…。そして本音を言うと、近現代アートに詳しくない私は、「なんでこれがアートなんだろう」としばし考え込むこともあった。
隣で見ていた子供が「屁理屈じゃん」とつぶやいていた時には思わず笑みがこぼれてしまった。
世界の見え方は人それぞれだ。
もちろん、こうした数々の作品から自分と何かが共鳴する、そんな作品とも出会えるのではないだろうか。
私が自分に近しいと引きつけて感じたものはこれだ。
1948年のある作家の言葉、「私は色彩を通じて感じます。だから私の絵はこれからも色彩によって組織されるでしょう」
アンリマティス 大きな赤い室内 1948年
アンリ・マティスの作品である。
言葉や物事に視覚的なイメージや色をつけて思考する私は、こういう作品を見るととても救われた気持ちになる。
勝手に、自分と世界の見え方が似ているかもしれないなんて想像してしまう。
ちなみに、ポンピドゥー・センターを案内してくれていたフランス人のおじさんは当時の作品をみながら「これは
パッショナブルだね」「これはメッセージ性が強すぎるよね。ちょっと苦手だな」などとつぶやいていたかと思うとなぜか途中で消えてしまった。後に残された私は、その奇妙な体験を引きずりつつも、ユーモラスで情熱的な作品をたっぷり堪能した。どの時代にもいろんな人のいろんな人生があるものだ。
文:Yoshiko 写真:新井まる
【情報】
ポンピドゥー・センター傑作展 ―ピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで―
会期:2016年6月11日(土)~9月22日(木・祝)
会場:東京都美術館 企画棟 企画展示室
休室日:月曜日、7月19日(火)
※ただし、7月18日(月・祝)、9月19日(月・祝)は開室
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室:金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
8月5日(金)、6日(土)、12日(金)、13日(土)、9月9日(金)、10日(土)は9:30~21:00
観覧料:
当日券 | 一般 1,600円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000円
団体券 | 一般 1,400円 / 大学生・専門学校生 1,100円 / 高校生 600円 / 65歳以上 800円
※団体割引の対象は20名以上
※中学生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご持参ください